CIO シェアコラム

【イベント視聴報告】加速する広告のデジタルシフト-宣伝/販促のデジタルシフトと小売業界のDXの新潮流-

昨今、注目度が高まり多くの企業で加速するDX。その中でも、小売業界ではどのようなDXの取り組みが行われているのでしょうか?

当協議会理事の平井康文氏が副社長執行役員グループエクゼクティブヴァイスプレジデント CIO & CISOを務める楽天グループ株式会社が開催した「Rakuten OPTIMISM 2021」。

その中の1セッションである「加速する広告のデジタルシフト~宣伝/販促のデジタルシフトと小売業界のDXの新潮流~」の中で、稲盛学氏(株式会社アドインテ デジタルトランスフォーメーション Div 取締役副社長兼COO)、永山悟氏(株式会社電通デジタル 統合デジタルマーケティング部門 部門長)が、小売業界でのデータの活用法、DXの取り組み事例や今後の展望について語っています。

本記事では、稲盛氏、永山氏の語った小売業界のデータの活用法、DXの取り組み事例や今後の展望についてご紹介させていただきます。

※オリジナル動画についても、以下URLより是非、ご視聴いただければと思います。

<オリジナル動画>
加速する広告のデジタルシフト~宣伝/販促のデジタルシフトと小売業界のDXの新潮流~

本記事が、小売業界でDXの推進に悩むCIO及び経営層、IT部門の方々にとって、少しでもお力になれましたら幸いです。

小売業界でのデータの活用法

①コミュニケーション設計の変化

永山氏は、ここ数年で購買データにより顧客とのコミュニケーション設計に変化が生まれていると言っており、具体的には、以下のように語っています。

15年前は、まず広告のスタークリエイターがいて、マス広告を起点に仮説を立てそこから垂直結合で顧客とのコミュニケーションを設計するということが主流だったが、それが今では、色々な形で顧客のデータ(購買データ)を使えるようになってきていることで、購買データを起点としてさかのぼって設計していく形に変化してきている。

このように、顧客とのコミュニケーション設計が変化してきている中で「データを集めることがDXである」と考え活用目的が定まっていないまま、ただデータを集めるだけになっている企業が見られ、これではDXは上手くいかないと考えている。

今までデータを持っていなかった企業がデータを集めようとすると、そこには多くの投資が必要になることや、データをどのように活用していくのか、またデータを集める目的が定まっていないままにやみくもにデータを集めてしまうことで、データを貯めるウェアハウスに係る金額ばかりが膨れ上がってしまうことから、いかに「データを活用目的に沿って使える形にしながら貯めていけるか」という点が重要である。

(参考:動画内投影資料

②経済圏データの活用

「データを活用目的に沿って使える形にしながら貯めていく」仕組みを作る1つの方法として、経済圏データを活用することで「走りながらデータを貯めていく」または「成果を出しながらデータを貯めていく」ことができるのではという仮説があると永山氏は言っており、具体的には以下のように語っています。

例えば、楽天のデータを使うことでターゲティングの分析から広告配信(告知)、さらには店頭での誘導トライアルのキャンペーン、コマースへの誘導、ファン育成が一気通貫にできるようになっている。経済圏データをもっと活用することで、走りながら成果を上げていくということができるのではと考えている。

(参考:動画内投影資料

③「アドレサブル」という考え方

経済圏データの活用方法について、永山氏は以下のように語っています。

経済圏データを使うときにPOC(検証)が1回で終わるケースが多い。これはすごくもったいないことで、経済圏データは何回もあの手この手を使って初めて使えるデータになるものである。

その中で、顧客が新規なのか既存なのかももちろん大事だが、顧客の属性や購買チャネルなどをアドレサブル(特定できている)かが極めて重要であり、経済圏データの活用を通して、特定できている顧客をより増やしていきフリークエンシーや購入金額などを抑えていくことを継続的に行い、施策の効率を高めていくことが今後益々必要になってくる。

(参考:動画内投影資料

リテールテックの立場でのDXへの取り組み事例

 ①リテールメディアについて

リテールテックベンチャーである株式会社アドインテ(以下アドインテ)で今すごく力を入れているというリテールメディアについて稲盛氏は以下のように語っています。

 リテールメディアというと、最近その言葉自体も浸透してきており、よくメディアに取り上げられているのは「クローガー・モデル」と「ウォルマート・モデル」だと思う。
この2つは、リテールメディアという大きなくくりでは同じ捉え方ができるが、実は収益の立て方に以下のような違いがある。

 【クローガー・モデル】

CRMの機能を基にインストアのメディアに配信する仕組みで、外部のメディアも使うが、色んなアプリ、ECWEBサイトで配信する仕組みで収益化している。

 【ウォルマート・モデル】

オンラインとオフラインのタッチポイントをSSP※として束ねて、一括運用できる仕組みをもって、ものすごく大きな収益を上げている。

SSP・・・SSPとは、Web広告の配信仲介システムやサービスのうち、掲載メディア側に提供されるもの。複数の広告配信サービスの統合などの機能を提供する。
(引用:IT用語辞典 e-Words



(参考:動画内投影資料


②取り組み事例

リテールメディアという領域では、現在40社以上支援をしているが、一番メディアに取り上げられ注目を得ているのは株式会社ツルハホールディングス(以下ツルハ)の例であると稲盛氏は言っており、具体的な取り組み事例については以下のように語っています。

モデルとしては、基本的にクローガー・モデルを採用しているが、ID-POS※データや会員データで、オンラインオフラインのタッチポイントを含めて、CDP※という形で分析するデータ基盤を作って、それを基に外部のメディア(FacebookYouTubeInstagram等)に配信する仕組み、データ基盤を作って協業しているのがツルハのケースである。

CDPというデータを分析する基盤を作ることから、今までデータになっていなかったオフラインの来店者の方のデータ化、AIカメラやビーコンといったサービスで支援している形である。しかし、そもそもこのリテールメディアをやりましょうと1番最初にツルハに提案に行ってから、実際にやろうとなるまで2年程かかっている。

ID-POS・・・ID-POSデータとは、顧客のID(性・年代等の様々な顧客情報)が紐づいた購買データを指します。
(引用:電通リテールマーケティングHP

CDP・・・カスタマー・データ・プラットフォーム(CDP)とは、複数のソースからファーストパーティの顧客データを収集して統合し、顧客ごとに単一の一貫した包括的なビューを構築するソフトウェアを指します。
(引用:Oracle Japan HP

ツルハがアドインテのサービスの導入に踏み込むまでに2年程かかったことからも、既存事業と新しく取り組むDX化は場合によっては既存事業の否定になるケースも考えられるため、経営層が難色を示す場合も考えられると本セッションでファシリテーターを務めた紺野俊介氏(楽天グループ株式会社 執行役員)も語っています。

その中で、ツルハがアドインテのサービスの利用に踏み切る決め手となったポイントについて稲盛氏は以下のように語っています。

DXの推進となると、トップの方の意思決定が全てなのかなと思う。DXには色々とメリット・デメリットがある中で、メリットの方が大きいという判断の基にツルハの経営陣の皆様の意思決定が、デメリットがあるであろうことも踏まえて、メリットの方をしっかり見てもらえたことが大きかったと感じている。

小売業界のDXのこれから

①永山氏の見解

デジタルを主語にしないことがすごく大事であると考える。
例えば、データ1つにしても、そのデータは楽天のものでもなく、メーカーのものでもなく、あくまでも顧客のものであり、顧客から期待を込められて預かっているデータを使うことによって、顧客に返すべきものは素敵な体験だと思う。データというのは仕組みでしかないため、データを活用した体験設計を顧客に戻していくことが大事だということを意識することが、これからの小売業界でのDXを考える上で重要になると考えている。

また、メーカー企業も既に独自で、経済圏データを活用している例が増えてきている印象である。
そのため、今後は電通などの企業が、どのようなクリエイティブであり、設計であり、もっと言うと検証で終わることなく継続的に回せるようにROIを合わせていくことができる仕組みを提供していきたい。

②稲盛氏の見解

小売業界がDXに向き合う際に、「縦割りの組織」がまだまだ多いことが課題として挙げられると考える。
DX
は本来部署を横断しないとできないものであると考えるが、DXをすすめる部署がDX推進部などの1つの部署になってしまっていることが、DXを推進する上で1つ難しいポイントであると感じている。

アドインテの立場からこのような企業にアプローチする際には、「DXを推進する必要がある」「デジタル化を進めたい」という意見は経営層をはじめ、現場の意見でもあると考えられるが、数ある施策に対して優先順位を付けてまず何から実施していくべきか、経営層の方と深く話をする必要があると考えている。
アドインテのリテールメディアもDXとして見ると非常に小さな領域であるため、より広く価値を提供できる領域を増やしていきたい。


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