日経XTECHの名物コラムである「テクノ大喜利ITの陣」。
その中でも、今回は「IT部門出身の社長が誕生する日は来るか」をお題に以下3つの質問に対して4名の有識者の方が論じている記事の考察と、本協議会の考えをご紹介いたします。
【質問1】ITを重視する社長が急増、IT部員の将来は明るい?
【質問2】生え抜きのCIOは減少、これをどう考えればよいか
【質問3】IT部員が将来、社長になるにはどうすればよいか
※日経XTECHに掲載されたオリジナル記事についても、是非ご一読いただければと思います。
<オリジナル記事>
「にわかIT理解」の社長は増えたが、IT部門出身者は社長どころかCIOにもなれない(木内 里美 氏 SANTA 会長)
DXでも明るくないIT部門の未来、技術者は「愛あるCIO」となり社長を目指せ(寺嶋 一郎 氏 TERRANET代表)
CIOという職種自体が時代遅れ、IT部門から社長が出る可能性はないと思え(有賀 貞一 氏 AITコンサルティング 代表取締役)
IT人材は単なるSEでなく「優雅な白鳥」、経営者に必要な経験とスキルを身につけよ(廉 宗淳 氏 e-Corporation.JP 代表取締役社長)
この記事は、CIO人材の育成・登用に関心のある方に最適な内容となっています。
本当にITを重視する社長が増えているか?
「ITを重視する社長が急増、IT部員の将来は明るい?」という質問に対して、3名の有識者が“ITを重視する社長が急増している”というところに疑問を持っているようです。
【質問1に対する木内氏の回答から引用】
どの時代にも先進的な経営をする企業は事業規模を問わず存在し、ITを重視し情報化をリードする社長もいることは事実である。
その点では今も昔も同じだが、確かにテクノロジーの進化とともにITを重視する社長の割合は少しずつ高まっているようにも感じる。
とはいえ、海外企業のように社長がITを重視して経営を差配しているのは、日本ではまだまだ限られているだろう。(出典:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00868/031800168/?P=2)
木内氏のコメントにもあるとおりテクノロジーの進化に伴いITを重視すべきという考えが高まっていることは確かと思われます。
一方、寺嶋氏は「少なくとも表面的にはITを重視する社長が多くなっている。」と表現しています。
また、“表面的にではなく本当にITを重視するとはどういうことか”について、以下のように述べています。
【質問1に対する寺嶋氏の回答から引用】
真のデジタル化とは、AI(人工知能)やビッグデータなどの新たなデジタル技術の活用とか、単なる新事業の創出とかのことではない。
真のデジタル化はITの問題ではなく、会社全体の問題である。外に現れるビジネスの成果ではなく、会社全体をデジタルを前提としたスピーディーでフレキシブルな組織に変えることなのだ。(出典:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00868/032200169/?P=2)
IT活用の遅れが叫ばれる中、ITは経営者にとっても避けては通れない知識となったことは言うまでもありません。
ところが、ITを活用することを意識するあまり、ITの活用が目的となってしまっている例が少なくありません。
本協議会では、ITだけでなくビジネスを熟知しており、経営目標をかなえるための手段としてITを利用し、どのように経営に良いインパクトを与えられるかを考え、IT戦略を策定し、推進できるCIOという存在が経営に参画することが必要と考えています。
生え抜きのCIOが減少している理由
廉氏は、生え抜きのCIOが減少している理由について、以下のように述べています。
【質問2に対する廉氏の回答から引用】
(CIOは)要するに情報技術だけではなく、CEOやCFOと同じレベルの経営メンバーとしての自覚を持って、自らイノベーションを進めていくに足る知見を獲得しなければならない。
本業とITを融合させて企業競争力を高めたり、新しいビジネスを開拓したりしていける能力を持つ必要がある。国内外のビジネス動向にも優れた見識も持たなければいけないであろう。生え抜きのCIOが減少しているのは、企業の中でそれらの知見や能力を備えた人を見つけるのが容易ではないからではなかろうか。
そもそも、キャリアパスとしてCIO候補の人材を育てていくといった人事育成戦略を持っている企業は少ないように思える。(出典:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00868/032600171/?P=3)
廉氏が述べているように、IT部門に求められている役割とCIOの役割は大きく異なるため、CIOに必要な「経営とITをつなぎ、会社の目標としているところに達するためにITで何ができるか」を考える力は、IT部門だけでの経験を通じて身に着けることは難しいと考えられます。
そのため、生え抜きのCIOを輩出するには、CXOとして企業の核になるリーダーを育成するキャリアパスや育成計画を検討するところから始める必要があり、一朝一夕では難しいと考えられます。
そのような状況の中で、寺嶋氏は「プロのCIOに来てもらう」ことを進めています。
【質問2に対する寺嶋氏の回答から引用】
「プロのCIO」に来てもらって、IT部門を変革してもらおうという考え方は、米国流のジョブ型の会社経営からの発想である。
米国ではプロのCIOだけでなく、プロのCEO(最高経営責任者)に来てもらい、会社を立て直すといったことも多い。(出典:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00868/032200169/?P=3)
デジタル化やIT活用が急務となっている昨今では、CIOを輩出するための人材育成計画を検討することも必要ですが、社内にロールモデルがいない場合、充分なスキル・経験を持った社外の人材に参画してもらうことを検討してみてはいかがでしょうか。
また、本協議会では、現在CIOとして活躍されている方およびCIOとして活躍されていた方の経歴に関して、調査を行っています。
本協議会の独自調査によると、実際生え抜きでCIOに就任された方は100人中28名という結果になりました。
1つの事業会社に勤め、グループ内出向は経験されていても転職をせず勤め続けられた方がCIOに就任されるケースは、本協議会の独自調査からも複数企業を経験されてCIOに就任された方と比べて少ないと言えます。
また、1社の事業会社に勤め続けてCIOに就任された方のほとんどが、IT部門のみに所属していたのではなく、営業部門や経営企画部門など事業に直接関わる部門を経てCIOに就任されており、社内SEやIT部門のみを経験された方がCIOに就任されるケースは非常に少ないということがわかりました。
IT部員が社長(CEO)になるには
CIOの座をつかむのが難しいのであればCEOになることはより難しいと言えますが、そのような状況の中でIT部員が取れるアプローチとしてどのようなものが考えられるでしょうか。
有賀氏は業務部門で頭角を現すことと表現していますが、他の3名が述べているビジネスに精通すべきという考えに通ずるものがあると思います。
具体的には、有賀氏、廉氏は以下のように述べています。
【質問3に対する有賀氏の回答から引用】
ITが縦軸機能の時代から、横軸機能の時代へと変化してきているのだから、企業内で頭角を現すためには、ITの知識や技術への理解が不可欠である。
しかし同時に、DXを起こそうとするならば、いくつかの業務部門での専門的ノウハウが必須となる。(出典:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00868/032300170/?P=5)
【質問3に対する廉氏の回答から引用】
IT部員の人が社長になりたいのであれば、極めて当然だが、自ら経営者に必要な経験とスキルを身につける必要がある。まず、自社の経営に関する知識を積むべくよく研究してほしい。
IT部門に勤める立場であっても、情報システムだけに関心を持つのではなく、自社のビジネスの特徴や国内外の市場の動向にも関心を持って、自社の革新的な競争力はどこにあるのかを見極めよう。(出典:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00868/032600171/?P=4)
本協議会も廉氏の意見に賛成します。本協議会では、CEOだけでなくCIOを目指す上でもIT部員にとって経営の知識は必須となると考えています。
また、経営知識を習得する上で下支えとなる現場での業務知識を身に着けるためにも、CIOに就任した際経営とITの橋渡し役として活躍するためにも、有賀氏の述べているようにIT部門のみにとどまらず、業務部門においてITを使った業務改革の推進役を担う経験も非常に有効と考えます。
また、寺嶋氏は、経営に関する知識の習得についてIT部門に所属するからこそのメリットを以下のように述べています。
【質問3に対する寺嶋氏の回答から引用】
IT部門は、ビジネスのバリューチェーンのすべてに関わることができる。IT部門はすべての組織を串刺しにして俯瞰(ふかん)することができる唯一の部署である。
ある部門にずっといれば、やはりその部署の視点でしかビジネスを見られないし、どうしても部分最適の思考になりがちである。
これからは全体最適はもちろんのこと、ビジネスをエンド・ツー・エンドで顧客の視点で捉える必要がある。
いろいろな部署のシステム化の経験のあるIT部員なら、様々な視点からビジネスを捉えることができる。
そしてビジネスアナリシスを習得することで、全社のビジネスを正しく認識できるのだ。(出典:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00868/032200169/?P=4)
IT部員の方でCIOやCEOを目指している方はぜひ以下の記事もご覧ください。
まとめ
CIOとして活躍できる人材を輩出するには、IT部門で経験を積むだけでは十分ではありません。
生え抜き社員の中からCIOとして活躍し得る人材を育成するためには、IT部門だけでなく事業部門でも経験を積むことができる新たなキャリアパスや人材育成計画を検討する必要があると言えます。
しかし、新たなキャリアパスや人材育成計画は一朝一夕では実現が難しく、CIOとして活躍し得る人材を短期的に育成することは非常に難しいと思われます。
その場合には、新たなキャリアパスや人材育成計画の検討と並行して、外部からのCIO人材の登用を検討してみてはいかがでしょうか?
なお、当協議会代表理事の長谷川の事例が掲載されているshareBOSS様の記事「CIO(最高情報責任者)採用のポイントとは? 採用メリットから求人方法までご紹介」で、CIOの採用ポイントや求人方法が紹介されています。CIO採用のポイントとして合わせてお読みいただければと思います。
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投稿者プロフィール
- 新卒でSIerに入社し、法人営業、商品企画を担当。後に株式会社グローバル・パートナーズ・テクノロジーにコンサルタントとして入社。2021年より一般社団法人CIOシェアリング協議会の運営に関わる。
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