先日行われたFujitsu ActivateNow2021の中で、「名物CIOと議論、DXの現状と未来― DX推進の勘所とプラットフォームのあり方 ―」というタイトルで喜多羅 滋夫 氏がディスカッションされました。
本記事では、DXをテーマに行われた本ディスカッションの中で特にポイントと思われるところをご紹介いたします。
本記事は、自社のDXを検討、推進されている経営者やITの責任者、または、それに準ずる役割を担われている方にとって参考になる内容となっております。
ポイント①DXをうまく進めるための勘所
経営者が日経新聞などで他社のDX事例を見かけて慌てて情報システム部門長にAIやRPAの活用などの指示を出すケースが多く見受けられる。
まず考えなければならないことは、会社が今まで取り組んできた課題に対してどういうアプローチをしていくか。
日清食品時の例で言うと、業務の清流化やハンコ廃止に取り組むことも大切だが、本丸で考える必要があるのはどうやって店頭に売れ筋の商品を置いておけるようにしておくか。今はトムヤムクンヌードルがどこの店舗にあった、とツイートがされたらそこの店舗にお客さんが押し寄せ需要が上がるなどのように、消費者の動きもダイナミックになっている。そのような状況の中でどうやって欠品・売れ残りを減らすか、欠品・売れ残りを減らすことによって事業の収益性を上げていくことを考えることが本丸である。
どの会社も事業上のキーイシューはあり、これまでBPRや業務改善など様々な対応をされてきたと思う。
ただ、今までうまく対応できていれば、今現在は既にイシューではなくなっているはず。
一方、IoTなどのソリューションとなるIT技術は常に新しいものが出てきている。
DXの台頭は、今まで解決できなかった企業にとってのキーイシュー、主要課題に対して違うアプローチで取り組む手段が出てきたということ。
例えば「すごい武器があるから何かをする」ではなく、「この会社の事業をどうやって改善していく、根本的に考え方を変えていく」ような骨太の戦略があって、その戦略でどういうゴール(収益を上げる、欠品を減らす、廃棄品を減らす)を目指すか、そのゴールを目指すためにどうやってデジタルソリューションを活用していくのか。
とはいえ多くの会社がコロナで在宅になり、社員が出社できない状況の中事業継続をしなければならない。
その中で目下の課題であるTeamsやZoomなどのコミュニケーションツールの導入サポートももちろん必要だが、本当に会社にとっての重要なキーイシューに向き合ってどうやって取り組んでいくかが一番大切である。
ポイント②DXを素早く始めるためのヒント
他社で成功している事例を自社のシチュエーションに当てはめて考えることがおすすめ。
各所で福田さん(富士通株式会社 執行役員常務 CIO(兼)CDXO補佐)が全体的感をもったプレゼンをされているが、いろんなクライアントでコピペして使ったら?と提案している。
他社の整然としたドキュメントを使って自社の実情にあわせてブラッシュアップ、リプロデュースしていく。
他社が作成した体系だった資料をゼロから作るだけで半年かかってしまう。そこに時間をかけるのであれば、ありものを使って磨いてすぐにスタートしよう!
参考:https://pr.fujitsu.com/jp/news/2020/10/5.html
(プレスリリース:富士通自身を変革する全社DXプロジェクト「フジトラ」が本格始動)
ポイント③IT部門の役割と会社のゴールに紐づく個人の目標について
2つの大きな考えのもと、30年近く外資企業で仕事をしてきた。
1つがその領域のプロであれということ。プロである人たちがマルチファンクションでプロフェッショナルチームを組み、会社のパフォーマンスを上げていく。IT部門の人たちはITの分野でプロフェッショナルでなければならない。
もう1つは、どのような部門でも会社のゴールに連携していなければ存在意義はないということ。外資企業では経営層がゴールを設定して、そこからカスケードダウンしていく形で1人1人の個人目標まで落としていくような形だった。
日本企業でIT部門をマネジメントするようになり疑問を感じたのは、IT部門の人たちが本当の意味で自分の取り組んでいる業務が会社の業績や今期の目標にどう連携しているのか見えているか?ということ。
最終的には個人が「明日売り上げを上げるために今日何をやっていますか?」という問いに対して何らかの答えを持っていなければならない。それぐらい自分の仕事と事業の成果の関係性が意識できるようなアクションプランにしなければならない。
組織が大きくなると、「マシンの可用性が〇%」という目標を立てることがあるが、そこから先はどういう意味があるのか理解できていないケースがみられる。
可用性を上げようと思うと、お金や人をつぎ込めば実現できてしまうが、商売として取り組む以上適正な投資レベルがある。
IT部門には、自社の事業内容やゴールを理解しながら、ITという武器を使ってどうやって会社を引っ張っていくのかが以前よりも求められている。
会社の事業テーマに対してITという武器を持ち込もうとしたとき、ITを分かっていることは当たり前、ITという武器を使って事業にどう貢献しているかを明確にしながらオーナーシップを持って達成に向かって動くことが求められる。
ポイント④経営のテーマとして取り組む内製化
自社のオペレーションの本質を分かった上で適切なサービスを提供していくための内製化であり、体制を作る上では人材を配置して内製化すべきところと外部のサービスをうまく使うところを自分たちで定義する必要がある。
ITのサービスの展開方法を自分たちで決める主体性が大事。
内製化という言葉の意味も変わりはじめている。
IT人材はそもそも不足しているがデジタル活用は待ったなしの状況のため、社内の人を育てる必要がある。それはIT部門の人だけではなく、営業もマーケも生産もITにどっぷり浸かってどうすればITを自分たちの仕事に活用できるか自分事として考えなければならない。全員が今日の仕事、明日の仕事にどうやってデジタルを活用していくかを考えることが内製化の1つのテーマだと思う。
ポイント⑤塩漬けするシステムと積極的に変えていくシステムの判断
ポイントは大きなテクノロジーの流れの中で凍結・安定を優先し社内のリソースをあまりかけずにローコストで塩漬けにするものと、企業の競争力の源泉のため新しいものに変えていくものという判断を正しく行うこと。
1つの切り口はSoR、SoE。
2つ目の切り口としては動いていくものと止めるものの判断。止めるものに対しては既存のインフラをうまく使ってローコストで安定させることも大切である。
もう1つ考慮すべきこととして、お客様とのタッチポイントがある。消費者の前に次々と現れるテクノロジーはこれからどんどん進化していくため、お客様とのタッチポイントかどうか、またその関係性を考慮して判断することが重要。
10年後を予測することは難しいが、10年前のことを考えてみると、eスポーツはまだなかった。
また、スマホというとWebブラウザを主に利用していたが今はアプリでほとんどの用事が済むなど、10年前に見えていなかったことがたくさんある。
今後10年はおそらくより速いスピードで変革がずっと続くと考えると、いかに企業として取捨選択をするかが非常に大事である。
※SoR:企業で使われるシステムを分類する用語の1つで、主に記録することを目的としたシステム(会計・経理や人事、受発注管理、製造管理のためのシステムなど)
※SoE:顧客や取引先との結びつきを強化するためのシステム
ディスカッションを聞いて感じたこと
喜多羅さんのディスカッションを拝聴し、個人的に非常に印象に残ったのは、目標設定に関わるお話です。
「明日売り上げを上げるために今日何をやっていますか?」という問いに対する自分の答えを常に持ち続けることは、大切にしていきたいと感じました。
DXがテーマの講演ではありましたが、目標設定に関わるお話は企業で働くすべての方にとって大切なことではないでしょうか。
自社やお客様のDXに携わる方にはもちろん、DXに関わられていない方にも参考になれば幸いです。
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投稿者プロフィール
- 新卒でSIerに入社し、法人営業、商品企画を担当。後に株式会社グローバル・パートナーズ・テクノロジーにコンサルタントとして入社。2021年より一般社団法人CIOシェアリング協議会の運営に関わる。
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